奏者インタビューシリーズ1 柴田高明

2023年3月25日ロームシアター 京都ノースホール 公演「エンカウンター」に先立ち、ロゼッタ主宰の橋爪が演奏家メンバーにインタビューを行いました。初回は立ち上げ公演以来のメンバーで、マンドリン奏者の柴田高明さんにお話を伺いました。

橋爪:「エンカウンター」では、公募による作品を中心に演奏を行います。柴田さん担当の作品は、メキシコ出身でハンガリー国籍も持つ作曲家Aurés Moussong(オーレス・ムーソング)による「Orugananda」です。ムーソングは、メキシコで学位を取得したあと、ハンガリーのリスト音楽院の修士課程に進み、その後、ベルリン芸術大学やストラスブール音楽院など、ヨーロッパ各地の音楽学校で作曲を学んだ経験を持つ、多様なバックグラウンドを持った作曲家です。今回演奏する「Orugananda」はクラリネット 、マンドリン 、左手ピアノのための作品で、彼の亡き父で小説家の同名短編小説をモチーフにした作品です。演奏者としてこの作品に対しどのような魅力を感じていますか?

柴田:ロゼッタの特徴でもあると思うのですが、異種楽器が混ざり合うことでロゼッタ独自の響きが生まれること。今回の曲でも、やはりその魅力が一番印象的です。私の演奏曲「Orugananda」では、3つの楽器が幼虫の不思議な動きを表現します!

橋爪:大変哲学的な幼虫、いわゆる芋虫の思想についてユーモラスに表現した超短編小説が題材になっているのですが、詩的な音楽によって、拡張的に表現されているのが魅力的な作品ですね。
柴田さんは近年はマンドリン独奏によるリサイタルシリーズに注力されたり、ご自身が主宰するマンドリンオーケストラ・ギルドにおいても、現代音楽に積極的に取り組まれています。その中でもクラシック音楽の文脈の中で、古典的なレパートリーと現代音楽とのつながりをしっかりと提示するような、ヨーロッパの伝統的な手法・視点を用いながらも、日本の作曲家の作品を大事にしながら演奏会を組み立ててらっしゃる印象です。ご自身の普段の活動とロゼッタの活動は違った視点と共通する部分があると思いますが、どういった印象をお持ちですか?

柴田:ロゼッタの活動は、新たな世界との接点として、自身にとって無くてはならないものです。マンドリンって、ヨーロッパの伝統音楽の文脈に生きた楽器なのに、ちょっと閉じられた独自の世界をつくっているんです。オーケストラ楽器の演奏家にもよく知られていなかったり、電車でも知らない人に「これ何ですか?」と声かけられたり。でも、マンドリンの世界は、中に入ると意外と広かったりする。私自身も、この閉じられたマンドリンの世界にどっぷり浸かっている人間です。内向きと言われればそれまでですが、だからこそ見えてくることがある、特に近年続けている「マンドリン無伴奏の世界」シリーズでは重視してる視点です。ロゼッタでの活動は、公募や委嘱による最新の音楽に触れることができ、色々な楽器による普段と違う音を体験、そして室内楽で混ざり合うことができる。ロゼッタならではの新鮮な演奏会の在り方も、リサイタルやマンドリンオケの伝統的な演奏会スタイルを行う中でも大切なスパイスとなっています。実際に、ロゼッタにてご一緒した作曲家の方に個人的に委嘱する機会もありました。

橋爪:ロゼッタでも作品を委嘱した中堀海都さん、山根明季子さんの無伴奏作品も初演されていますよね!ロゼッタ自体が奏者にとって広がりをつくる「場」であってほしいというのは、主宰者としてとても大切に考えていることなので、実際に積極的にロゼッタでの出会いを拡張してくださっている姿にはいつも刺激を受けています。今年の無伴奏マンドリンシリーズ(東京京都)では世界的に活躍されている藤倉大さんに委嘱された「Quill」のほか、橋爪の新作「Light Leaks」も演奏していただく予定です!
マンドリンへの思いについてもう少しお聞かせください。

柴田:私は、マンドリンはより外に向けて歩みを進めないといけないと考えています。これは、私個人とロゼッタの活動で共通する部分だと思います。
ロゼッタは、伝統的な文脈を踏まえた上で、新しい音楽や演奏会の在り方を模索している団体だと思うのですが、そのクリエイティブな場所にマンドリンがあること、様々な楽器と室内楽でつながること。これは、マンドリンがより開かれた外の世界に歩みを進める上で非常に大切と思います。
私個人としては、より伝統に軸を置き、内向きな視点を深めることで新しいマンドリンの世界を見出して発信していきたいと考えています。

橋爪:ありがとうございます。ロゼッタと柴田さんの間にはしっかりと境界がありながらも、その境界自体はとても曖昧で横断可能なものである、ということがロゼッタのコレクティブとしての価値を高めてくださっていると感じています。
最後に、ロゼッタ/エンカウンターに興味を持つみなさまに一言お願いします。

柴田:様々な楽器の特徴、様々な編成、様々な作品を、クリエイティブなコンセプトで楽しめる演奏会、どうぞ新たな刺激を感じにご来場ください!
 

「エンカウンター」は世界各国の作曲家による新作を演奏する公演です。
3/25ロームシアター 京都ノースホールにぜひおこしください!

柴田高明
https://www.shibataka.com/
ドイツ・カッセル音楽院器楽教育課程マンドリン科にて学ぶ。 日本やドイツのマンドリン独奏コンクールに数多く入賞。2006年の帰国以降リサイタルを国内各地で開催し、CDはこれまでに日本国内盤「麗しき薔薇を知る者」「クロニクル~マンドリン音楽の300年」「冬のエレジー~マンドリンと弦楽トリオの為の現代邦人作品集」を、またドイツにて「sky blue flower」を発 売。レパートリーは幅広く、現代音楽の分野でもロゼッタのメンバーとしての活動の他、多くの新作初演を行なっている。 ソリスト・講演者として、ヨーロッパの国際音楽祭や国際シンポジウムに招待参加。マンドリン専門誌「奏でる!マンドリン」では,2008年の創刊当初よりマンドリンの歴史や奏法などに関する記事を連載するなど、演奏・研究両面で広く活躍している。マンドリンオーケストラの分野でも、マンドリンオーケストラ・ ギルドを主宰、またフィラルモニカ・マンドリーに・アルバ・サッポロのゲストコンサートマスターの他、 宇治マンドリンアンサンブルフローラ、京都大学マンドリンオーケストラ各技術顧問、ジャパン・スーパー ユース・マンドリンオーケストラ1stマンドリン講師を務める。 大阪音楽大学ギター・マンドリン専攻非常勤講師。日本マンドリン独奏コンクール、並びに全国高等学校ギター・マンドリン音楽コンクール各審査員。 木下正紀、G.ワイホーフェン、S.トレッケルの各氏に師事。